「ヘッドライト早期点灯研究所」は、早期点灯の実施に役立つ情報の調査を行うチームです。今回はヘッドライトの早期点灯で効果を発揮する「反射材」にフォーカスします。
夕闇が迫るにつれ、走る車から見えづらくなってしまう沿道の歩行者や自転車。そんな時、「見られやすさ」に効果を発揮するのが、サムシングイエローなどの明るい色をした洋服に加え、ヘッドライトの光で輝く反射材。夜道を走るランナーや自転車に乗る人の間では常識になりつつある安全グッズ「反射材」とは、いったいどのようなものなのでしょうか。反射材開発の先駆けと言われる住友スリーエム関連会社であるスリーエム ヘルスケア株式会社の三上俊也さんに、その歴史や構造などのあれこれを教えて頂きました。
スリーエムは1990年初頭、3人のアメリカ人が集まってミネソタ州で設立され、世界で初めて紙ヤスリを製造したメーカー。その後、紙ヤスリを進化させた水を使っても砥石が取れない耐水ペーパーを開発し、自動車ボディの成形に役立つと、アメリカ自動車産業の興隆とともに発展してきた会社なのだそうです。紙ヤスリに関し、スリーエムが世界に誇る技術は3点。紙ヤスリに使用する砥石の粒子を細かく均一な大きさにする粉体技術、粒子を奇麗にコーティングする技術、そしてそうした粒子を紙などの非着体にピタッと接着させる技術です。スリーエムが世界で初めて発明した録音テープにも同じ技術が使われているのだそうです。
実はこうした紙ヤスリや録音テープ製造する技術は、そのまま反射材の製造に応用されているのだとか。
反射材をスコープで拡大して観察すると、小さな丸い透明なガラスビーズが並んでいるのが見えます。小さなガラスビーズがコーティングされ、シルバーや蛍光イエローなどのシートに接着しているというのが、反射材の構造です。紙ヤスリの砥石をガラスビーズと考えると、紙ヤスリと反射材が同じ技術のもとで製造されているというのがお分かりいただけると思います。反射材には、このガラスビーズ方式と拡大してみると三角形が並んでいるように見える、プリズム方式の2種類があります。反射率の高さから道路標識に採用されているのがプリズム方式、加工のしやすさやファッション性などから衣服や靴などに多く用いられるのがガラスビーズ方式です。
俗にいう「反射材」とは、「再帰性反射材」の略称なのだそうです。
光の反射にも種類があり、鏡や鏡面で起こる「鏡面反射」、それにザラザラした表面に光が当たることで起こる「乱反射」があります。では、反射材の性質でもある「再帰性反射」とはどのようなことなのでしょうか?
それは、光源から出た光が、再帰性反射材を通して、忠実に同軸上に戻るというもの。車のヘッドライトから出た光を、きちんとクルマの方に跳ね返してくれるのが再帰性反射材なのです。この再帰性反射材、どんな角度からでも光を返しますので、例えばリストバンドなどの円柱形で用いられていても、効果は変わらないそう。
道路の交通標識には、プリズム方式の再帰性反射材が用いられているそうですが、「トラックの運転手よりも、スポーツカーの運転手のほうが、道路標識は明るく見えているはず」と三上さんは言います。それは、運転手の目の高さと、ヘッドライトの位置との関係によるもの。トラックだとヘッドライトと運転席は離れていますが、スポーツカーだと近いですよね。ヘッドライト=光源に近い方が、反射材を通って帰ってくる光を認識しやすいということなのです。
再帰性反射材の歴史は第二次世界大戦中にさかのぼるのだそう。日本軍の飛行機は夜間飛行して着陸する際、缶の中にロウソクをつけて空から滑走路が分かるように目印にしていたそうですが、ロウソクの灯りは敵軍にもすぐに見つけられてしま危険があったそう。しかし、アメリカ軍の飛行機は、夜間の何もない滑走路をスムーズに降りていっていたそう。実はこのとき、アメリカ軍は滑走路に再帰性反射材を利用していたのです。飛行機が発する光を跳ね返す反射材の光を頼りに、敵軍に悟られることなく離着陸をしていたのだとか。
夜間の滑走路で活用されていた反射材は、戦後に平和利用されるようになり、まずは道路の白線に使用されるようになりました。白線に利用されることで、車のヘッドライトでセンターラインが見えやすくなり、事故防止に貢献するようになります。その技術は日本にも伝わり、道路の白線や標識のみならず、海難救助用のライフジャケットや救命の浮き輪など、現在では、夜間作業の安全を確保するため、多くのシーンで活躍する素材となっています。
今年3月には、ハイビジビリティ・クロージング(高視認性衣服)のISOが発行され、この再帰性反射材とイエローやオレンジの蛍光色を組み合わせた安全作業服の基準が制定されたため、今後は再帰性反射材が衣服に使用されることが増えてきそうです。こうした安全作業服は、人間の胴体、手首、足、など、光が当てられるとと人の形が浮かび上がるように考えられています。反射材も1点身につけただけでは、街中の様々な光とまぎれて「人が身につけている反射材の光だ」と認識されにくいよう。反射材を身につけるときには、手首や足首などの動く部分に複数個身につける方が、反射光が「動く」ため、ドライバーから「人が身につけている反射材の光」と認識されやすくなるそうです。
日常で気軽に身につけられる反射材としては、右の写真でご紹介しているキーホルダー型のものなど。スウェーデン生まれの安全グッズグリミスの製品は、子どもに大人気のキャラクターモチーフのものも多くアクセサリー感覚もありながら、スリーエムの反射材を使用し、ヨーロッパの安全基準を満たす本格派。こうしたものはすぐにでも楽しく身につけられそうです。
スリーエム ヘルスケア株式会社の三上さんに反射材のすばらしい技術と性能そして歴史を分かりやすくご説明いただき、反射材素材に親しみを感じることができました。夕暮れ時や日没後に車のヘッドライトで光り、持ち主の「見られるための光」となる反射材。この素材がいまよりももっと手に入りやすく、身近なものになれば、身につけるあらゆるものに使われるようになりそうです。新鋭ファッションデザイナーによる反射材がちりばめられた光るファッションが続々誕生! なんて未来がやってきたらおもしろいですね。
日暮れが早くなるこの時期、歩行者の方は白や黄色の明るい服装に反射材もファッショナブルに取り入れて、ドライバーに「見られやすく」するように心がけてくださいね。
そしてクルマを運転するドライバーは、歩行者や自転車に車の接近を知らせるため、日没30分前からの早めのヘッドライト点灯をお願いします。オートライト機能を持つクルマを運転されている方は、早期点灯をアシストしてくれるオートライトシステムも、ぜひ活用してください!
きっかけ さん
ご意見を頂き、ありがとうございます!
歩くとき、自転車に乗るときは積極的に反射材を活用したいですね。
おもいやりライトでは早期点灯と反射材の活用をあわせておすすめしていますが、お互いが光って存在を知らせあって交通事故が減っていくのを目指しています。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
最近はかわいい反射材も出ています。
娘にも持たせていますが、夕方の危ないと言われている時間帯に
無灯火のドライバーが多いのでは、反射材の意味をなさないですよね。
ぜひ、意味あるものになるよう、期待しております。