ヘッドライト早期点灯研究所

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2017年03月10日

前を見ていても実は見ていない?「眼」から交通安全を考える

「ヘッドライト早期点灯研究所」は、早期点灯の実施に役立つ情報の調査を行うチームです。今回はクルマを運転する人もそうでない人も関係のある「視覚」に着目。北里大学医療衛生学視覚機能療法学の川守田 拓志先生に人の視覚と交通安全について調査してもらいました。

人の視覚はどの程度まであてになる?

最近、自動運転に関するニュースが多く取り上げられています。車に搭載されたカメラやコンピュータが働いて私たちの代わりに運転してくれる、SF映画のような技術が着実に進行しています。完全自動運転になるまでにはかなりハードルが高いようですが、将来的にはあらゆる状況下において、人工知能が歩行者や他車の行動を予測して判断できるようになると期待されています。私自身も人の視覚には限界があるので、基本的にはこの流れに期待してしまいます。しかし、それでもやはり機械にまかせるのは怖い、コンピュータの判断は万能なのか、カメラは常に適切に働くのかといったクリアすべき課題も多く聞こえてきます。今後もこの分野は、ますます盛り上がっていき、目が離せません。

さて、本題は、自動運転の是非について語ることではなく、人の視覚はどの程度あてになるのかという点を皆様と一緒に考えていきたいと思います。運転時あるいは歩行時において、今までヒヤリと感じたシーンがないか思い返してみてください。「一時停車中にカーナビを見ていたら前の車が動いていた」、「歩行者の信号待ちで携帯を見ていたら信号が青に変わっていた」、「お店の看板を探していたら人にぶつかってしまった」。誰しもがこれらに似た体験をしたことがあるのではないでしょうか。もっと深刻なケースでは「前を向いて運転していたはずなのに、歩行者に気が付かず突然現れたように感じ、急ブレーキをかけた」、最悪の場合には、「まったく気が付かず不幸にも事故を起こしてしまった」、などがあげられます。そのようなヒヤリと感じた、ハッとしたことがある場合、重大な事故に至っていた可能性も否定できません。労働災害や医療事故においては、ハインリッヒの法則というものが有名で、1件の重大な事故の背景には、29件の軽微な事故があり、また300件のヒヤリ・ハットがあるとされます。いかにヒヤリ・ハットを減らしていくかということが重要になってきます。

前を向いているから見られているのは間違い?意外に狭い有効視野

これらヒヤリ・ハット体験や交通事故は、様々な原因が考えられますが、その中のひとつに有効視野の関与が考えられます。有効視野とは、学術的にはいくつか定義がありますが、シンプルでわかりやすく表現するとまっすぐ見ながら同時に情報処理が行える領域のことです。眼科に行って視野検査という見える範囲を計測すると片目で見たとき上方と鼻側は、約60度、下側は約70度、耳側は、90から100度程度になります。これらが普通二種免許取得・更新時や眼科でいわれる視野の範囲なります。有効視野は、これらの範囲よりもぐっと狭くなります。どのように測るかによりますが、おおよそ20~30度程度です(ちなみに有効視野は、眼科に受診しても測ることができませんのでご注意ください)。複雑な作業をしている最中や混雑した環境下、高齢者では、この有効視野が狭くなります。そして、この有効視野の広さは、視力以上に事故との因果関係が高いものとして報告されています(Owsley, 1995)。眼の奥に人や危険な対象が映っているのに見えていない、そんなことが起こりうるのです。ドライバーは、前を向いているからといって必ずしもすべてを認知しているわけではない、歩行者は、まだ明るいからといって必ずしも見られているわけではないということを、私たちは再認識する必要があります。

眼から交通安全を考えると、「見られやすさ」につながる

それでは私たちは、一体どのように対処したらいいのでしょうか。そこで、眼から交通安全を考えることが重要なのではないかと思います。皆さまは、運転あるいは歩行時、何を見ながら進んでいるでしょうか?もちろん、人の行動は、目的によって大きく変化するのですが、基本的な特性として、明暗差(コントラスト)の高いもの、大きなもの、明るいもの、点滅するもの、動くものなどに視線が向いてしまいます。興味深いことにこれらは、無意識でも視線が動き確認行動をとってしまうのです。逆にいうと明暗差の低いもの、小さなもの、暗いもの、点滅しないもの、動かないものといった環境下では、見られにくいことを示しているわけです。したがって、夕方や夜間では、これら見られにくい環境が整いやすく、交通事故が多くなるというのは、容易に想像ができます。実際、毎年10月から1月にかけての夕方の交通事故が多く、こどもや高齢者の事故が多くなります。このような夕方の交通事故対策には、最先端のヘッドライトなど先進技術も有用ですが、身近な対策として早期ヘッドライト点灯は、効果絶大です。早期ヘッドライトの点灯の価値は、先に述べた明暗差を高め、明くなることで、自車を見てもらいやすくなります。また、歩行者や他車、道路を照らすことで、明暗差、明るさを上げ、低下した視覚機能を補うことができます。結果的には、先に述べた有効視野を拡大することにつながります。早期ヘッドライト点灯は、もったいないという声も聞こえてきますが、見るため、見られるため、そして何より安全のためにぜひ点灯しましょう!

夕方の視覚機能低下を実感してみよう!

夕方は、環境の明るさ(照度)の変化が大きく、日没後30分以内は特に事故が起こりやすいとされています。まだまだ見えていると思っていると大きな落とし穴があります。眼は順応(明順応や暗順応)といって明るさに慣れるという素晴らしい機能を有しています。しかし、この優れた機能があるがゆえに、夕方の視覚機能の低下に気が付かず、ヘッドライトを点灯しない状態での運転あるいは反射材を着用せずに歩行してしまいます。夕方には、視力や立体感覚、色覚をつかさどる錐体細胞という眼の奥にある視細胞の働きが弱くなり、また眼のわずか歪の要因により視覚機能が低下してしまいます。こちらのファイルは、ランドル環という眼科で使用されるものです(医学的診断を目的としたものではありません)。これを3 mの位置に移動させて切れ目を確認した後、今度は、部屋の照明を少し落としてもう一度確認してみてください。見えにくさを体験できると思います。
最後にもう一度強調します。私たちは意外に見えていないし、見られていません。どうか交通事故が起こらないよう早めにヘッドライトを点灯し、お気を付けてドライブ、あるいは反射材を身に着けてウォーキングなどをお楽しみください!

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