おもいやりライト事務局メンバーは、今回、クルマを開発している人に、ヘッドライトも含めた安全に対する考えを伺ってきました。
話をしてくれたのは、トヨタ自動車の製品企画本部に所属する水澗英紀さん。クルマを作るうえで安全のために心がけていることや、自動車開発者として自身が運転する際に事故を防ぐどんな工夫をしているのでしょうか。
事務局:国産車に比べると輸入車はオートライトによるヘッドライト点灯が早いですよね。水澗さんはどう感じていますか?
水澗さん:一部の輸入車でライト点灯が早いのは確かです。ベンツとかフォルクスワーゲン、アウディなどは特に早い。ただ、日本のクルマも少しずつ早くなっていて、日産も早いですし、実はトヨタ車も少しずつ早めているんですよ。数年前にJAFが各メーカーのクルマを集めて実験した時(早期点灯をアシスト!クルマのオートライト機能って?)に比べると、トヨタ車も早くなっています。
早くオートライトが点くのはいいことだと思います。ただ日本の場合は、早くつけると周りから浮いてしまうとか燃費に影響するとか、いろんな意見があってなかなかすすまないのが現状ですね。
事務局:自動車を開発している側の人間として、ヘッドライト早期点灯の流れはどう感じていますか?
水澗さん:自ら情報を発信するためライトオンは必要です。早めに点けることに対しては、昔に比べると浸透していると感じています。
ここ5年くらいでヘッドランプのデザインがどんどん変わって、LED発光式などの採用もあって光り方が意匠性の高いものになってきているのはいいことですね。なぜなら個性的な意匠をアピールすることで、早くつけるのがカッコいいという流れになるからです。
日本人は目立つのが嫌いで自分だけライトをついていることを避けようとするけれど、みんなが個性をアピールするためにつけて、結果的に早めのライトオンが増えていくのはいい方向だと思います。
事務局:クルマ(ハードウェア側)の進化とともに、日本人の意識を高めていくことも求められますよね。
水澗さん:自動車メーカーが多い日本だからこそ、交通安全に関しても世界に先駆けてやっているくべきたと思っています。しかし現実として考えると、欧州に比べると予防安全に関して法律ではなくマナーの部分で少し劣っている印象を持つときもある。それを啓発していくことが重要だと思っています。日本のユーザーさんの意識を高めるような活動はこれからもっとやっていかないといけませんね。
事務局:クルマを作る上では安全のために心がけていることは?
水澗さん:僕は主に開発を担当しているのはミニバンで、最近関わったのはノア、ヴォクシーそれからエスクァイアです。それらはお母さんたちが運転することも多いですよね。
それまでコンパクトカーや軽自動車に乗っていたりして、大きなミニバンを運転するのが怖いという声もよく聞きます。その心配を解消するのが視界だと思うんですよ。
現行モデルのノア・ヴォクシーは視界がとても広いと評価を頂いています。しっかり見えるという事が運転しやすさと安全の第一段階だと思ってクルマを作っています。
運転支援はその次のステップですね。極端な話、自動ブレーキ(プリクラッシュブレーキ)などの先進安全システムは新型車を作った後からでもマイナーチェンジなどで追って搭載することもできます。しかし視界の広さはいちどクルマを作った後ではもう変えることができませんよね。そこは最初の企画段階からしっかり「視界がいいクルマを作る」と考えてやらないと、視界のいいクルマは作れないのです。だからこそ、新たにクルマの開発をスタートするときから広い視界を心掛けていますね。
事務局:ここからは水澗さん自身の話を聞かせてください。クルマを運転する上で、心がけていることはありますか?
水澗:クルマを作る立場と言うこともあり、かつてに比べて運転が慎重になりましたね。心がけているのはまわりのクルマにブレーキを踏ませない運転。周囲も含めていかに流れを乱さないで走れるかに気を遣っています。
道路は1台で走っているわけではなく、周囲との社会性が大切です。ハッとしてまわりにブレーキ踏ませたり、急な動きで後ろの車に急ブレーキをかけさせないようにすることが事故にあう、事故に巻き込まれる確率を下げてくれるのです。
事務局:たしかにそれは重要ですね。
水澗さん:また、時間を掛けて長い距離を運転するので、惰性にならず意識的にまわりを見るようにしていますね。
運転歴が長くなって経験を積んだりすると、周囲をしっかり見ないで思い込みや推測で運転してしまいがち。たとえば「斜め後ろにはバイクがいないだろう」と思い込みでしっかり確認するのを怠ったりとか。それでヒヤッとしたこともあるので、くどいくらいまわりを見るようにし、そのうえで流れを乱さないように気を付けるのです。
左折のときも一時停止してみる
水澗さん:公共のバスや宅配のトラックが(法律的には一時停止の義務がない)左折時に一時停止するケースが増えてきましたよね。それは流れを乱すような行為にも見えますが、実際にやってみると実に安全性が高いことを感じました。歩行者や自転車などもよく確認できるのです。
事務局:自転車ですか? 最近増えていますよね。
水澗さん:自転車は歩行者信号が点滅するとスピードを上げることがあるんです。信号に引っかからないために。そこでクルマ側は左折前に一時停止すると横や斜め後方が確認しやすくなってお互いに安全性が高まる。だから左折時の一時停止をするようにしています。
事務局:ドライバーとして、最近は自転車との共存も重要ですね。
水澗さん:それに右折やコンビニなどから道路に出るようなシーンも。交差点で曲がる際には小回りしがちですが、できるだけ大回りして曲がる(コンビニなどから道へ出る時に道路に対して車体をなるべく垂直に近づけて発車するタイミングを待つ)ようにしています。
理由は、斜め方向の死角が減るから。斜め後方はもっとも死角になりやすい場所なので、人やクルマの接近が斜め後方ではなくできるだけ横方向で確認でき、視界を広く確保できるようにするためなのです。
事務局:クルマの開発者として、ユーザーさんに心がけて欲しいことはありますか?
水澗さん:事故を起こしたい人はいませんよね?
安全はクルマを運転するうえで一番大事なことです。そして運転はまわりとのコミュニケーション。だから自分の存在を周囲にアピールすることは大切なのです。
事故にあうかあわないかは確率論です。道を走る以上は誰にでもその可能性がある。だけどそのリスクを減らすのが重要で、スピードを出し過ぎない、周りをよく見る、そして暗くなる前からライトをつけて自分の存在をアピールする。あたりまえのように感じるかもしれませんが、そんなことを心掛けてほしいですね。
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今回はクルマを開発している人にお話を聞く事ができました。
まず自分の視界も確保しながら、相手に気付いてもらうために明りをつける。ゆとりをもった運転がポイントと感じたインタビューでした。
歩行者&自転車の方も気づいてもらうためのゆとりを作るために、反射材の着用、クルマを運転する方も日の入り30分前のヘッドライト点灯&オートライトの活用もぜひ実践してくださいね!
<インタビュアー プロフィール>
●工藤貴宏(クドウ・タカヒロ)
1976年2月長野生まれ、東京在住
物心ついた時からクルマに興味を持ち、中学生の時には自動車雑誌の読み漁りを開始。18歳の誕生日を迎えた翌日に仮免許を取得し、クルマを運転する悦びにドップリと浸かっていく。大学時代に自動車雑誌の編集部でアルバイトしたことをきっかけとし、自動車雑誌編集部や編集プロダクションを経てフリーの自動車ライターへ。自動車雑誌やWEBで新車紹介記事を中心に活躍中。はじめて所有したクルマはS13型シルビア。はじめて東京オートサロンに行ったのはまだ高校生だった1994年でした。